石に夢中になる子ども。 ひたすら箱からティッシュを出し続けるこども。 広いスペースでただひたすら走り回るだけで楽しくなる子ども。
大人からすると一見「それって何の意味があるの?」という行動を子どもはよくとります。おんなじ行動をひたすら繰り返したり,一つの分野にのめり込んで他のことに興味を示さなかったり。
その行動の背景には子どもの成長を紐解いていく上で非常に大切な秘密が隠されています。
それが「敏感期」と呼ばれる成長の時期です。
子どもの成長を支える大切な敏感期。
「敏感期ってどんな時期なの?」
「敏感期にはどんな種類がある?」
「どうして子どもの成長に敏感期が大切なの?」
この記事ではそんな敏感期の疑問にお答えしていきます。
Contents
敏感期とは|吸収力アップのボーナス期間
敏感期とは,特定の分野に対しての吸収力が高くなっている時期のことです。
モンテッソーリ教育の専門家松浦公紀先生は書籍「モンテッソーリ教育が見守る子どもの学び」の中で敏感期を次のように説明しています。
幼児期にはある特定の事柄に対して,強い感受性が現れ敏感になるということです。しかも,ただ敏感になるだけではなく,その特定の事柄をいとも簡単に吸収してしまうとうのです。
松浦公紀 2004. モンテッソーリ教育が見守る子どもの学び 環境を征服する子どもたち. 学研教育みらい pp.33
例えば,私たちが普段話している「日本語(母国語)」,私たちはどうやって覚えたでしょうか?
教科書を読んで文法を覚えて…単語帳で単語を暗記して…日本語会話教室に行ってマンツーマンレッスン…
なんてことは皆さんきっとしてこなかったはずです。子どもの頃に自然と言葉を覚えたのではないでしょうか。
子どもには「言語の敏感期」があります。言語の敏感期には言葉に対して感受性が高まり,特別な努力をしなくてもどんどん言葉を吸収していくことができます。
日本語で育った私たちが大人になってから英会話に苦労するのとは言葉の獲得の難易度が全く違いますよね。これが敏感期の特徴です。
なぜ敏感期が子どもの発達に重要なのか
敏感期には特定の事柄に対して吸収力が高まっています。
反対に敏感期を過ぎてしまうと,その能力を獲得するためには学習や努力が必要になってきます。英会話のレッスンに半年通ってもなかなか英語を話せるようにならないように。
子どもの敏感期にはいくつか種類があり,そのどれもが子どもが豊かに成長していくには欠かせない能力です。敏感期に子どもは一生を支える能力を自らの力で獲得していこうとしているのです。
敏感期はいつまでも続くわけではありません。限られた期間で感受性や吸収力は落ち着いてしまいます。いわば特定の事柄を身につけるためのボーナスタイムみたいなものです。
だからこそ,言語なら「言語の敏感期」にその能力を身につけることが大切なのです。
敏感期の種類と時期
敏感期にはいくつの種類があります。そしてそれぞれ現れてくる時期が異なります。
敏感期の一覧を表にまとめました。
感覚の敏感期 | 0〜6歳 | 五感を働かせる時期。見る,聞く,触れる,かぐ,味わうが研ぎ澄まされる。その情報を整理,分類する。 |
運動の敏感期 | 0〜6歳 | 自分の体が思い通りに動かせることが嬉しい。立つ,座る,運ぶなどの基本的な動作を身に付ける。手指の細かい運動もできるようになる。 |
言語の敏感期 | 胎児期の7ヶ月半〜5歳半 | 胎児の時から音や声を聞き始め,母語を習得する。人の話を熱心に聞き,自分でも話し始める。文字を読むことや,書くことを始める。 |
秩序の敏感期 | 6ヶ月〜6歳 | 物事の順番や置き場所へのこだわりが出てくる。「同じことを同じ順序」でやりたがったりものをまっすぐに並べ続けたりする。 |
数の敏感期 | 4歳〜 | なんでも数えたくなり,声に出して数えだす。数字に気がつき,数の概念がわかるようになってくる。年齢や日付,量にも関心が向く。 |
文化の敏感期 | 4歳〜 | 周囲の世界に関心が生まれる。植物,動物,鉱物,宇宙,歴史,地理などに興味を示す。 |
(参考:松浦公紀「6歳までに一生を支える力を育む モンテッソーリ子育て 15か条」より作成)
感覚の敏感期【0〜6歳】
視覚,聴覚,嗅覚,味覚,触覚といった五感と身体の感覚(固有受容覚・前庭覚:ゆれたり斜めになったりを感じる感覚など)に対して感受性が増している時期です。
五感はイメージしやすいけど,身体感覚は少しわかりにくいかもしれません。身体の曲げ伸ばしの感覚や身体が傾いたことを察知するような感覚です。赤ちゃんがしきりに身体をつっぱったり,曲げ伸ばしをしたりする動きや”たかいたかい”でキャッキャと笑うのは身体感覚が刺激されている証拠です。
五感を刺激することで脳の発達も促されていき,身体感覚はその後の運動機能の向上にもつながります。
運動の敏感期【0〜6歳】
運動の敏感期といってもこの段階で成長していくのは,サッカーや野球といった個別の能力というよりも「立つ」「座る」「歩く」といった基本の動作や身体のコントロールが中心です。
運動の成長は「立つ」「歩く」といった大きな動き(粗大運動)から始まり「つまむ」「ひねる」といった指先の細かな動き(微細運動)へと進んでいきます。
言語の敏感期【胎児期の7ヶ月半〜5歳半】
聞く・話す・書く・読む力が伸びていく時期です。文字への感受性も増しています。言語の敏感期の初期(0歳〜)にはたくさん話しかけてあげることが大切です。赤ちゃんは話すことはできませんが,親の話す言葉をよく聞いて唇の動きをよく観察しています。これが話す力につながっていきます。
絵本をたくさん読んであげることも言語の敏感期には最適です。一緒に読むことで「これなんて書いてあるの」と文字への興味を引き出すきっかけにもなります。
秩序の敏感期【6ヶ月〜6歳】
決まった「場所」や「順序」へのこだわりが見えてくる時期です。「いつもと同じ」ことに強くこだわり,そこに安心感も感じます。「これはお母さんのコップ,これはお父さんのコップ」といったように特定のものと所有者が一致している状態を好むようになってきます。色分けや形分けなどが楽しくなる時期でもあります。
秩序の敏感期はその後のルールへの理解につながる能力です。理論的に考える力の小さな芽,ともいえるかもしれません。
数の敏感期【4歳〜】
抽象的な思考力の芽生えが見え始めてくる時期です。言語の理解と合わせて数(数詞)に対しても興味を持ってきます。なんでも数えたくなって,回転寿司のお皿の数をずっと数えたり,駐車場にある数字を読み上げることが楽しくなる時期です。早い子は簡単な足し引きの概念を理解することもできるようになってきます。
ただし,頭の中で数を数えたり計算ができたりするのは抽象的な思考力が育ってからで,初めの頃は数える対象=具体的なものが目の前にあることが重要です。
文化の敏感期【4歳〜】
教科学習でいうと「理科」や「社会」が近い分野です。自分が生活している世界に対して感受性が増している時期です。得意な子は国旗をたくさん覚えたり,動物や働く乗り物に興味を持ったり”プチ博士”が誕生する時期でもありますね。
お店で品物とお金のやり取りをすることに興味を覚えたり,お父さん/お母さんの仕事が気になったりもします。ごっこ遊びの展開が豊かになってきます。
敏感期を知ることのメリット
敏感期を知ることで子どもの行動の理由や成長の秘訣がわかります。
敏感期を知ることのメリットは次の4つ
- 子どもの集中力が発揮される
- 子どもの「いたずら」や繰り返し行動の理由がわかる
- 子どもに必要な環境がわかる
- 子どもが自然な形で伸びてくる
子どもの集中力が発揮される
子どもの敏感期に見合った環境があると,子どもは活動に対して積極的に繰り返し集中して関わるようになります。「集中現象」と呼ばれる現象です。
「集中現象こそがすべての鍵」と言われるほどモンテッソーリ教育では重視されています。なぜなら,子どもには自ら成長していく「自己教育力」がもともと備わっており,自己教育力が最も発揮されている時に見られるのが集中現象だからです。
(参考:松浦公紀 2004. モンテッソーリ教育が見守る子どもの学び 環境を征服する子どもたち. 学研教育みらい)
敏感期に高まった興味と感受性をフルに発揮し,繰り返し活動に取り組む。その時の子どもの集中力はとても高く,疲れも見せずに夢中になることができます。
集中現象の積み重ねによって,人格の成長をはじめとした子どもの内面も充実する,といわれています。
子どもの「いたずら」や繰り返し行動の理由がわかる
敏感期を知ると大人には一見いたずらや無意味にみえる子どもの行動の背景を知ることができます。
例えば,マンホールの隙間にひたすら小さな小石を入れ続けている子ども。大人には「一体何が楽しいのだろう」と疑問に映るかもしれません。
この時子どもは小さなものをつまんで入れることに集中しているのかもしれません(運動の敏感期)。はたまた落ちていった音を聞いているのかもしれません(感覚の敏感期)。ティッシュをひたすら引き抜きたい1歳児は多いもの(運動の敏感期)。これは大人には「いたずら」や繰り返しの無意味な行動に見えるかもしれませんが,子どもにとっては全身全霊を使った敏感期への挑戦なのです。
マンホールやティッシュなど「困ったな」と思うこともあるかと思いますが,「敏感期だからこういうことがやりたくなってしまうんだ」と思うことでちょっと心のゆとりが出てくるかもしれません。
もちろん,許容できない行動もあると思います。そういう時は,ものを落とすならプットイントイやペットボトルと豆を用意して入れる”おもちゃ”を用意したり,子どもの行動の理由に合わせて環境を用意してあげることも有効です。
子どもに必要な環境がわかる
プットイントイの例でも見たように,敏感期を知ることで子どもの成長に必要な環境を知ることができます。
子どもは自ら成長していくための「自己教育力」を持っています。ただし,自己教育力を発揮するためには手の届くところに必要な環境がそろっている事が絶対条件です。
例えば,魚のことに興味を持った時におうちの手に届くところに図鑑があれば,子どもは自ら本を開いて魚のことを深く知ることができます。
感覚の敏感期に自然とたくさん触れ合うことで,木の匂いや感触,見た目の色など「本物の感覚」を知ることもできます。「マンゴスチン」の写真を見たことがあるだけよりも,本物を触って感じて食べたことがある方が,「マンゴスチン」について深く理解することにもつながります。
集中現象が生じるためにも,子どもの敏感期にあった環境を用意することが重要です。
子どもが自然な形で伸びてくる
敏感期を知り,環境を整えることで子どもは自らが持っている「自己教育力」を思う存分に発揮することができます。子どもの正常な発達のためには自己教育力が自然な形で発揮されることが大切です。
敏感期に合わせた環境で成長していった子どもは「自立している」「自立心が育っている」「手順が良い」「感性が育っている」「興味や好奇心が旺盛」「自分で目標を決めて頑張る」などの特徴が見られます。
(参考:松浦公紀 2004. モンテッソーリ教育が見守る子どもの学び 環境を征服する子どもたち. 学研教育みらい )
子どもの自然な形の成長は非認知能力の育成でも重要なポイントです。
他にも別記事で「非認知能力が高い子どもの特徴 」について解説しています。参考にしてください。
まとめ|敏感期が子どもの成長を支える
今回はモンテッソーリ教育の中心概念でもある「敏感期」について解説をしました。
子どもの成長には各刺激ごとに吸収力の高まっている時期があります。この特定の対象に吸収力が高まっている時期が敏感期です。
敏感期を見極めることで子どもの自ら成長していく力を邪魔することなく伸ばすことができます。また敏感期を知ることで子どもの「繰り返し行動」や「いたずら」の背景も知ることができます。敏感期の現れ方は子どもによって違いはありますが,子どもが興味を持っていること,夢中になっていることに注目しながら,子どもの良い成長を応援していきましょう。
参考文献・サイト
松浦公紀 2004. モンテッソーリ教育が見守る子どもの学び 環境を征服する子どもたち. 学研教育みらい
松浦公紀 2022. 6歳までに一生を支える力を育むモンテッソーリ子育て15か条. 幻冬舎