Contents
非認知能力を伸ばすための関わり方とは
子どもの成長は親にとって楽しみな反面,心配事も多いですよね。特に変化の激しい現代では,今までのように「安泰な会社・職業」と言うものがほとんどなくなっています。子どもは将来どんな大人になって,どんな仕事をして,どんな人生を送れれば幸せになるのか。
そもそもその手前で,学校ではうまくやれるのか,勉強にはついていけるのか,良い成績をとって望んだ進路に進めるのか,エトセトラ,エトセトラ…!
近年,「非認知能力」と言う言葉が注目されています。学校のテストで測るような学力よりも,将来の仕事の成功や幸せな人生を歩むために必要な能力と言われているのが,「非認知能力」です。
非認知能力について詳しくは,「【まとめ】豊かに生きるちから-非認知能力とは」もご参照ください。
子どもの成長には、親の関わり方が大きな影響を与えます。非認知能力を伸ばす子育てでも親の影響は大きいです。
非認知能力を伸ばす子育てに外せない親の関わり方には5つのポイントがあります。適切な声かけ、フィードバック、サポート、信じて見守ること、そして大人がロールモデルとなることが重要です。この記事では,非認知能力を伸ばすために重要な親の関わり方について,具体的な方法、親の役割を詳しく解説しています。子どもと一緒に、非認知能力の成長を楽しんでみましょう。
親の関わりを工夫する
子どもの非認知能力を伸ばすためには大人の関わり方が重要です。幼い子どもにとって親は一番の見本であり,遊び相手です。子どもの発達段階や個性に応じて関わり方を工夫しましょう。
親の関わり方で大切なポイントは次の5つです。
- 適切な声かけを行う
- 適切なサポートを行う
- 適切なフィードバックを行う
- 子どもを信じて見守る
- 親がお手本を示す
それぞれ具体的にどのような点に気をつければいいのか,詳しく見ていきましょう。
適切な声かけを行う
親子の対話は子どもの成長には欠かせません。非認知能力を伸ばす子育てにおいても対話や声かけは重要です。
子どもは親からたくさんの影響を受けます。適切な声かけができれば子どもはもっとやる気を伸ばし,学びに向かう力がどんどん伸びていきます。反対に,自主性をつぶすような声かけを受ければ子どものやる気は立ち所に萎んでしまいます。
適切な声かけとはなんでしょう。「非認知能力を伸ばす」場合は子どもの好奇心が刺激されて自主性が伸びることが大事。
非認知能力教育のボーク重子さん(2018)は,子どもの「なぜ?」は子どもの考える力を伸ばす絶好のチャンスだと言っています。
子どもが「なぜ?」と疑問を持ったことに,大人が直接的な答えを与えるのではなく,「どうしてだと思う?」と声かけを行うことで子どもの考える力と発想力が伸びていきます。
反対に,2〜3歳くらいのまだ言葉を多く知らない子どもには「モノの名前」や「出来事の意味」などの”答え”を大人が教えてあげることも必要です。語彙の少ないうちはまだ考える材料を子ども自信が揃えていないからです。
声かけは年齢や発達段階に合わせて変えていきましょう。
適切なサポートをする
子どもの挑戦に対する過干渉は,子どもの成長にマイナスです。
ミネソタ大学のカールソン博士らの研究では,子どもが一人では解くことが難しいパズルの課題で,自分が実演してみせた親よりも,ヒントのみを与える支援的な親の方が,子どもの非認知能力の発達を促す結果になりました(Carlson, & Whipple, 2010)。
子どもには,自分一人では解決が難しい課題でも,大人の手助けや能力のある仲間との共同作業ならば解決可能な「可能性の領域」があります(中村,2004)。
(この「可能性の領域」のことをロシアの発達心理学者ヴィゴツキーは「発達の最近接領域」と言いました)
子どもは自ら成長していく可能性と意欲を持っています。大人は手出しをしすぎずにその意欲を守り,子どもが自ら考えていく姿勢をサポートしていきましょう。
適切なフィードバックをする
子どもが話しかけてきたり行動を起こしたら,親はぜひ温かい応答(フィードバック)をしてあげてください。情緒的な応答は子どもの心の安定へとつながります。
応答(フィードバック)の基本は「行動に対してすぐ反応する」ことです。例えば,子どもが自力で着替えをすませたら,「一人で着替えられたね!」「がんばってるね!」とすぐに声をかけてあげるといったことです。親の敏感性は心の安定の基盤になる愛着関係の安定性にも重要であると言われています(篠原,2015)。
ただし,「ご褒美をあげる」ことには注意が必要です。
子どもが率先して行なっている行動に,ご褒美をあげてしまうと子どものやる気を下げてしまう倍があります。これを心理学ではアンダーマイニング効果と呼ばれています。
例えば,子どもが進んでお手伝いをしているところにご褒美としてチョコをあげました。すると,子どもは自分から進んでやっていたお手伝いを「チョコがもらえない」としなくなってしまいます。子どもの内側から生じていたやる気が物質的な外側からのやる気に置き換わってしまったのです(Warneken, & Tomasello, 2008)。
子どもはもともと他の人へのお手伝いが好きだったり,好奇心に満ちてやる気を持っています。そのやる気を受け止めながら見守ることも大切なポイントです。
もちろん,ほめることだけがフィードバックではありません。危険なことをしていたら,ちゃんと注意して行動を止めることも必要になります。
ただし,過度な叱責や暴力によるフィードバック(体罰)は子どもの成長にとっては悪影響となります。成長を妨げるだけではなく,罰によるフィードバックには次のような弊害もあります。
罰の弊害
- 濫用の危険:子どもは大人に抵抗しづらい存在である。罰する大人は怒りに駆られて罰をエスカレートしやすくなる。
- 学習の危険:暴力などを用いた罰の場合,子どもが暴力を学習してしまい,今度は自分が友人や兄弟に対して暴力を使ってしまう危険性がある。
- 強化の危険:叱ること自体が子どもへ注目を向けることなので,反対に行動を強化してしまう場合がある。
中には,「今の自分があるのは厳しく叱ってくれた大人のおかげだ,殴られたことにも意味がある」と体罰を容認する方もいます。
ここで注意なのですが,体罰には教育的なメリットはありません。体罰に効果があったのではなく,体罰という理不尽さも糧にできるような心の柔軟性と強さがその人にあっただけです。子どもの成長のためには体罰や虐待につながるような暴力はゼロにしていきましょう。
子どもを信じて見守る
子どもの可能性を信じて見守るというのは,適切なサポートを行うと共通する点でもあります。
幼い頃の子どもの成長はとても早いものです。赤ちゃんは生まれてから1年でおよそ3倍の体重まで増え,寝返りも打てずにいた子がハイハイをしたり歩いたりできるようになってきます。
内面の成長は目にみえる身体的な成長と比べてゆっくり進んでいきます。特に知的な能力や非認知能力は個人差も大きいものです。周りと比べて「もっといろんなことをした方が良いのではないか!」「隣の子は幼児教室に行っているし,うちの子も通わせなくちゃ!」とついつい親自身も焦りを感じる瞬間がありますよね。
将棋のプロである藤井聡太棋士が子どもの頃に受けた教育としても知られているモンテッソーリ教育では,「子どもは自然のプログラムに従って成長する」(田中,2018)と言われています。子ども自身に自己教育力が備わっていて,子どもの成長には自然と芽が出る種子のように,自然のプログラムがある。だから,大人は無理に引っ張ったりせず自然と成長する子どもの発達に合わせて歩調を合わせていくことが重要なのです。
信じて見守るためには親側の心の余裕も大切です。子育てをしているとなかなか難しいですが,少しずつ休憩もとりながら,親自身の自分のための時間も大切にしていきましょう。
大人がお手本になる
大人がお手本となり,子どもにモデルを見せることも重要です。
中京大学心理学部教授の水野里恵先生は,地域社会に暮らす大人も含めた「社会情動的スキル」(非認知能力)育成の必要性を訴えています。
子どもにとって親は一番身近なお手本です。例えば両親がお互いのことを尊重しあった会話をしていたり,相手に共感的な態度をとっていたら子どもは自然とその態度を学びます。親が好奇心を持って楽しそうに何かに挑戦していたら,子どもも興味を持ちます。子どもは親がやっていることを真似したいのです。
いつも見られていると気負いすぎる必要はありませんが,子どもにとって良いお手本となるように親自身も非認知能力を発揮しながら日頃から過ごしてみるのはいかがでしょうか。親自身も毎日が楽しくなりますよ。
まとめ
子どもの成長には親の関わり方が大きく影響します。非認知能力を伸ばす子育てでは,以下の点を工夫していきましょう。
適切な声かけを行う
-適切な声かけで子どものやる気と学びを伸ばす
-「なぜ?」への対応で子どもの考える力と発想力を育てる
-年齢や発達段階に合わせて声かけを変える
適切なサポートを行う
-過干渉は子どもの成長にマイナス
-支援的な親が非認知能力の発達に効果的
-可能性の領域を活用して子どもの成長を促す
-大人は手出しは最小限,子どもの意欲と自主性をサポートする
適切なフィードバックを行う
-フィードバックは温かく,すぐに行動に反応する
-ご褒美に注意し、アンダーマイニング効果を避ける
-ほめるだけでなく、適切な注意も行う
-体罰は絶対NG
子どもを信じて見守る
-子どもの可能性を信じて見守る
-成長には自然のプログラムがある
-親自身の心の余裕を大切にする
親がお手本を示す
-大人がお手本になる
-親も非認知能力を発揮する
子どもの成長には親の存在は欠かせません。親自身も適度に息抜きしながら,一緒に非認知能力の成長を楽しんでみましょう。
参考文献・サイト
Bernier, A., Carlson, S. M., & Whipple, N. (2010). From external regulation to self-regulation: Early parenting precursors of young children’s executive functioning. Child development, 81(1), 326–339.
ボーク重子(2018)「非認知能力」の育て方:心の強い幸せな子になる0~10歳の家庭教育 小学館
みどりトータル・ヘルス研究所|うまく行動を強化するためには_応用行動分析学 ABA
中村和夫 2004. ヴィゴーツキー心理学完全読本-「最近接発達の領域」と「内言」の概念を読み解く 新読書社
篠原郁子. (2015). Sensitivity の派生概念と子どもの社会的発達―アタッチメント研究からの展望―. 心理学評論, 58(4), 506–529.
田中昌子(著),空生直(絵).2018 マンガでやさしくわかるモンテッソーリ教育 日本能率協会マネジメントセンター
中京大学|社会情動的スキルの発達と波及効果|研究・産学連携ニュース
Warneken, F., & Tomasello, M. (2008). Extrinsic rewards undermine altruistic tendencies in 20-month-olds. Developmental psychology, 44(6), 1785.