非認知能力

親なら知っておきたい!0〜6歳非認知能力が高い子どもの特徴

子どもの成長はいつも楽しみですよね!毎日毎日いろんなことを吸収して成長するわが子を見ると「あれ?もしかしてうちの子は天才なのでは!?」と,期待に胸をふくらませることもしばしば。

しかし,いまは社会の変化の激しい時代。成功とは何なのか?社会の中で幸せになるとはどういうことなのか。誰にでもわかる”正解”がなくなって,この子の将来のために何をしてあげたらいいのかと不安を抱えることも。

「勉強ができることも大事だけど,それよりももっと必要な力がある気がする…」

近年新たに社会を生き抜く力として学力よりも大事な力だといわれている非認知能力。この非認知能力について正しく知ることで,子どもの将来を明るくする豊かな人間力を養うことができます。

この記事では,「非認知能力とは」「非認知能力が子どもの成長に欠かせないわけ」「非認知能力が高い子どもの特徴」「非認知能力が高い子に育てるコツ」を心の育ちの専門家が詳しく解説します。

変化の激しい時代を生き抜くスキルについてぜひ参考にしてください。

非認知能力とは|人生を豊かに生きるちから

非認知能力とは,従来の学力テストやIQなどの”数値で測りやすい力”(認知能力)とは別に,「社会的の中で成功するための能力」として重要な能力のことです。

シカゴ大学教授でノーベル経済学賞も受賞したジェームズ・ヘックマン教授によっていち早くその重要性が訴えられました。ヘックマン教授は勤勉性や想像力,忍耐力のような”数値で表しにくい”能力こそが社会での成功を左右すると指摘しています。
(参考:ジェームズ・J・ヘックマン(著) 古草秀子(翻訳) 「幼児教育の経済学」

OECDは「社会情動的スキル」という用語で非認知能力と主観的幸福感などの関係性を世界的に調査しています。

近年,日本においても知識偏重の教育課程が見直され始めており,生きる力として学校教育のカリキュラムの中に取り入れられ始めています。生きる力は今まで学校教育で重視されていた知識や学力を現実社会の中でうまく活用するための力としても位置付けられています。主体的に学ぶ力やコミュニケーション能力といった非認知能力は学校生活から始まり社会人に至るまで求められるようになってきています。
(参考:文部科学省|学習指導要領「生きる力」,経済産業省社会人基礎力

非認知能力について詳しくは「【まとめ】豊かに生きるちから-非認知能力とは」でも解説しています。

非認知能力は”数値では表しにくい”けれども,子どもの成長や将来にとってとても大きな影響を及ぼす力です。非認知能力の発達には0〜6歳の幼児期が特に大切です。

では,反対に非認知能力が養われないとどうなってしまうのでしょうか。

非認知能力が低いとどうなる?

非認知能力の低さは子ども成長を妨げる要因になります。

ルポライターの石井光太氏は「ルポ 誰が国語力を殺すのか」の中で不登校問題の背景にある子どもたちの国語力低下を指摘しています。

石井氏は不登校支援をするフリースクールを取材し不登校経験者にインタビューを実施しています。その中で子どもたちから語られているのは,「どうしてかわからないけど学校に行けなくなった」という問題です。

過酷な受験プレッシャーや親の離婚,教室での不適応など不登校になった原因はそれぞれの子どもたちで異なるものでした。しかし,そこで共通していたのは,子どもたちは一様に自分の置かれた状況や気持ちを言葉にする術を持っていない,コミュニケーション力が欠落した状態だったということです。
(参考:石井光太 2022. 第四章 一九万人の不登校時を救え-フリースクールでの再生 ルポ誰が国語力を殺すのか. 文藝春秋 pp.154-189

OECDは,非認知能力の向上が健康やウェルビービング(幸福感)に強い影響を及ぼしていることを指摘しています。

2014年にブラジルのサンパウロで開かれたOECDの非公式閣僚会議にて「ウェルビーイングや社会進歩につながるスキルとは?」というテーマについて議論がなされました。会議ではバランスの取れた認知的スキルと社会情動的スキル(非認知能力)を発達させる必要性について全会一致での合意が得られています。

しかし,一方で社会情動的スキル(非認知能力)は測定の困難さから学校や大学の入学試験ではあまり考慮されていないこと。さらにフォーマルな学校教育で社会情動的スキルを発達させることが難しいと認識されていることで,必要性と社会実装の間にギャップが生じていることも指摘しています。
(参考:経済協力開発機構(OECD)(編著) 2018. 社会情動的スキル-学びに向かう力. 明石書店 pp.19-20

非認知能力が子どもの成長に欠かせないわけ

非認知能力の発達は子どもの成長には欠かせません。

教育方法学が専門の岡山大学准教授・中山芳一先生は「学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす」で非認知能力は認知能力の基礎となることを指摘しています。

自己肯定感をベースとして個人の能力の最も下に来るのが非認知能力である。思考能力が間をつなぎ,最終的に認知的能力が育まれていくモデルを中山先生は想定しています。

このモデルを中山先生は家の構造に例えて表現しています。自尊感情は家の基礎・土台,非認知能力は柱や筋交,認知能力は壁・天井・窓・扉・装飾など。認知能力を成長させるためには非認知能力やその土台土台となる自尊感情がしっかりと築かれていることが重要なのです。
参考:中山芳一 2018. 学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす. 東京書籍

非認知能力を人生を豊かに過ごすための「人間力」「生きる力」として重視しているのは,「「非認知能力」の育て方:心の強い幸せな子になる0~10歳の家庭教育」の著者・ボーク重子さんです。

ボークさんは著書の中で,娘の全米最優秀女子高生コンクールのエピソードを通して非認知能力の重要性を話しています。全米最優秀女子高生コンクールでは,「 正解のない問題に、自分らしく立ち向かって解決していく力」が審査基準になっており,その基準には主体性、柔軟性、想像力、自制心、自己肯定感、自信、回復力、やり抜く力、社会性、協働力や共感力といった重要な非認知能力が求められています。非認知能力は正解のない時代に求められる力であり,人生を生き抜くための「強い心」の根幹でもあります。
(参考:ボーク重子 2018. 「非認知能力」の育て方:心の強い幸せな子になる0~10歳の家庭教育. 小学館 pp.13-38

ボークさんは著書の中で非認知能力の必要性を次のように語っています。

「非認知能力」を鍛えて、「心が強い子」になれば、自分を信じて挑戦できるようになります。その子の人生にポジティブなサイクルができるのです。
ボーク重子 2018. 「非認知能力」の育て方:心の強い幸せな子になる0~10歳の家庭教育. 小学館 pp.37

学力などの認知能力を養うためにはその土台の非認知能力の向上が欠かせません。非認知能力を養うことで,正解のない問題を解決していくための「心の強さ」につなげていくことができます。

自主性を発揮してやり切る子どもになる|モンテッソーリ教育を受けた子たちの特徴

実際に非認知能力の高い子はどのような特徴を持っているのでしょうか。非認知能力の向上に効果があるといわれているモンテッソーリ教育を受けた子どもたちに見られる特徴を見てみましょう。

モンテッソーリ教育の専門家で「子どもの家」園長もつとめる松浦公紀先生は,「モンテッソーリ教育が見守る子どもの学び:環境を征服する子どもたち」の中で,モンテッソーリ教育を受けた子どもの特徴として次の8つをあげています。

  1. 自立している:自分のことは自分でやろうとする。自分のことが1段落すると助けの必要な子に手を差し伸べる。
  2. 自立心が育っている: 人の話をしっかりと聞くことができる。決まりや約束を守ることができる。
  3. 手順がよい: 先の事までを見通して活動することができる。
  4. 命令されることが嫌い: 自発性が育っているので、「〜しなさい」と命令されるのが嫌い。
  5. 感性が育っている: いろいろなことを意識することができる。
  6. 興味や好奇心が旺盛: いつもアンテナを張り巡らして生活している。
  7. 自己が確立されている: 自分に自信があるので人に流されない。
  8. 自分で目標を決めて頑張る: 自分で選んだお仕事と一生懸命関わる経験を積んでいるので、主体性を持った取り組みができる。
    (参考:松浦公紀 2004. モンテッソーリ教育が見守る子どもの学び 環境を征服する子どもたち. 学研教育みらい

モンテッソーリ教育では,子どもが自発的に自分の課題に関われる環境を用意することを大切にしています。子どもには自ら成長する「自己教育力」がある,という子ども観に根ざしているからです。

幼児期に受けたモンテッソーリ教育の経験はかけがえのない宝として個人の中に蓄積されます。子ども達は経験を通して,好奇心旺盛で自主性を持った最後までやり切れる人間に成長していけるのです。

非認知能力が高い子どもは未来を向いて生きていける

目標に向かってやり切る能力は「実行機能」という非認知能力としても研究されています。

発達心理学者の森口佑介氏は,「子どもの発達格差 将来を左右する要因は何か (PHP新書)」にて子どもの発達格差について記しています。この時に着目した能力が「実行機能」「向社会的行動(他人に親切にする行動)」です。特に,実行機能は子どもの目標に向かって行動する力に強く影響を及ぼします。

「マシュマロテスト」という有名な心理学の実験があります。子どもは机と椅子だけの部屋に通され座るようにうながされます。子どもの目の前にはマシュマロが置かれたお皿があります。実験者は「私はちょっと用があります。マシュマロはキミにあげるけど、私が戻ってくるまで15分間食べるのを我慢していたら、マシュマロをもうひとつあげましょう。私がいない間にそれを食べたら、ふたつ目はなしだよ」と言って部屋を出ていきます。子どもはマシュマロをすぐに食べるどうか,どのように我慢をするかが隠しカメラによって観察されました。

この実験では,子どもの自分をコントロールする力「実行機能」がどのように作用するかが観察されていたのです。子どもにとっては今目の前にある美味しそうなマシュマロをすぐに食べてしまいたいけど,待っていたらもう一つ多くもらえるという,”いまの満足”を取るのか”未来の利益”を取るのかの選択が迫られていたわけです。

森口氏はこの実行機能と向社会的行動(人に親切にする行動)の高い子どもを「未来に向かう」子ども,低い子どもを「今を生きる」子どもであるとして,その間には発達の格差が生じていると訴えました。ただし,ここで注意が必要なのはどちらの子どもが優れているというわけではなく,どちらも「今の環境に適応した結果」だという点です。
参考:森口佑介「子どもの発達格差 将来を左右する要因は何か (PHP新書)」 pp.42-45

子どもは環境によって成長の方向性が左右されます。実行機能と向社会的行動の差はその表れの一つと見ることができます。子どもが目の前の誘惑に負けず,未来に向かって進むためには子どもが育つ環境が重要なのです。

チェックリストによる非認知能力の測定

ここまで見てきたように非認知能力が高い子の特徴にはいくつかの共通点がありました。

先述の「学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす」著者・中山芳一先生は,大学生を対象に自己評価シートによる非認知能力の測定法の開発を行っています。

この自己評価シートはまだ妥当性・信頼性の確立した検査ではありませんが,どのような項目が具体的な非認知能力としてとらえられるのか参考になるかと思いますのでご紹介します。

非認知能力自己評価シート(中山ら,2019)から作成

これらの非認知能力が高い子に育てるためにはどうすればいいのでしょうか。そのポイントは「環境づくり」です。詳しく見ていきましょう。

非認知能力が高い子に育てるためのコツ

子どもの非認知能力を伸ばすためには,子どもが育つ「環境づくり」が大切です。

子どもは自ら育つ「自己教育力」を持っているといわれています。子どもは自ら環境に関わって自分の成長のために必要な課題をこなしていきます。その際に大切なのは,子どもの好奇心や自主性に応じた「挑戦」ができる環境が保障されているということです。

環境づくりの考え方については,「【非認知能力を伸ばす】子どもが育つ環境づくりの考え方」でも詳しく解説していますので参考にしてください。

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ポイントは大きく次の2つです。

  • 子どもの自主性が発揮できる環境であること
  • 子どもの安心・安全が守られていること

子どもが成長するための環境を整えるためには親の関わりも重要です。親の関わり方のポイントは次の5つです。

  1. 適切な声かけで子どものやる気と学びを伸ばす
  2. 適切なサポートを行う
  3. 適切なフィードバックを行う
  4. 子どもを信じて見守る
  5. 親がお手本を示す

親の関わり方のポイントは「【非認知能力を伸ばす】子育てに重要な親の関わり方5つのポイント」にて詳しく解説しています。

【非認知能力を伸ばす】子育てに重要な親の関わり方5つのポイント
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子どもの非認知能力の育ちのために親がする役割は「環境を用意して」「適度に導くこと」です。成長の主役は子ども本人です。子どもが困ったときは,あたたかい眼差しで気持ちに寄り添いながらさりげなくやり方を見せてあげましょう。

まとめ|変化の時代を生き抜く非認知能力の高さ

日進月歩で新しい技術や製品が生まれる激動の時代を私たちは生きています。変化の多い社会の中で,従来の学力や知識だけでは通用しない問題が増えてきました。いま正解のない問題に取り組むための力,非認知能力が求められています。

非認知能力の高い子どもは,自分の気持ちを察知して,好奇心旺盛に様々な物事に主体的に関わっていきます。ただ親や先生に教室で教えられるだけでは学べない「生きた知識・知恵」を身につけていきます。解決が難しそうな問題にも,未来を見据えて粘り強く取り組むことができるのは,子どもの中に非認知能力が養われているからです。

子どもが自主的に関われる環境を丁寧に整えながら,子どもの育ちを見守っていきましょう。

参考文献・サイト

ジェームズ・J・ヘックマン(著) 古草秀子(翻訳) 2015. 幼児教育の経済学. 東洋経済新報社
石井光太 2022. ルポ 誰が国語力を殺すのか. 文藝春秋
経済協力開発機構(OECD)(編著) 2018. 社会情動的スキル-学びに向かう力. 明石書店
中山芳一 2018. 学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす. 東京書籍
ボーク重子 2018. 「非認知能力」の育て方:心の強い幸せな子になる0~10歳の家庭教育. 小学館
松浦公紀 2004. モンテッソーリ教育が見守る子どもの学び 環境を征服する子どもたち. 学研教育みらい
森口佑介 2021. 子どもの発達格差-将来を左右する要因は何か. PHP新書
Nakayama, Y., & Yoshizawa, E. (2019). 非認知能力に関する自己評価シートの開発. Bulletin of Institute for Education and Student Services, Okayama University, 4, 186–195.
文部科学省|学習指導要領「生きる力」
経済産業省|社会人基礎力

ABOUT ME
こぐに
公認心理師/臨床発達心理士/保育士 大学・大学院で心理学を専攻。発達支援歴8年200人以上の保護者と子どもたちを支援。"こころの育ちの専門家"。 モットーは「豊かに生きる力を伸ばしてもっと笑顔に!」非認知能力を伸ばす子育てについてわかりやすく発信中。