非認知能力

【非認知能力を伸ばす】子どもが育つ家庭環境づくりの考え方

親なら誰しも抱く願い,「将来自分の子どもに社会で成功してほしい!」

昔は誰もが思い描くわかりやすい成功の姿がありました。でも変化の激しい現代では,学力に代表されるような認知能力だけでは不十分。今まで教育では取り上げてこなかった,「感情を扱う力」「やり切る力」「新しいものを創造する能力」など数値化が難しい能力こそ大切だと様々なメディアで取り上げられてきています。

変化の大きな現代で”成功”するためのキーワードが非認知能力です。

【まとめ】豊かに生きるちから-非認知能力とはさいきん話題になっている『非認知能力』。 「非認知能力」という題名のついた書籍の刊行も増え,子育て世代向けの雑誌などでも取り上げられる...

「なるほど!子どもの才能を伸ばすためには非認知能力を育むことが大切なんだ!」と,多くの人に知られるようになってきました。

でも一方で,こんな疑問も。

「学力を伸ばすなら勉強する環境を整えればいい,けど非認知能力の伸ばすための環境ってどうやって整えればいいの?」
「そもそも,非認知能力を伸ばすための家庭環境ってどんな環境のこと?」

この記事では,そんな悩みを持つ保護者の方向けに,非認知能力を伸ばすための環境づくりについて詳しく解説していきます。

非認知能力を伸ばすための環境とは

「モンテッソーリ・メソッド」という教育法を聞いたことはありますか?
将棋の藤井聡太さんが子どもの頃に受けていた教育として近年注目されている教育法の一つです。

モンテッソーリ・メソッドは,医師であり教育家であったイタリアのマリア・モンテッソーリ博士によって考案された教育法です。

モンテッソーリ教育の目的は、「自立していて、有能で、責任感と他人への思いやりがあり、生涯学び続ける姿勢を持った人間を育てる」ことです。
モンテッソーリ教育とは | 日本モンテッソーリ教育綜合研究所

モンテッソーリ・メソッドの特徴は,子ども自身に「自ら成長する力」があり大人は手出し口出しを最小限にして適切な環境を用意していくことにあります。

子どもが育つ環境の重要性はイノベーター教育でも強調されています。

ハーバード大学テクノロジー起業センター初代フェローで,イノベーション教育の専門家トニー・ワグナー博士(2014)は,子どもが自ら実験し,想像する欲求=イノベーション能力を発揮するために,子どもが大いに「遊べる環境」が大切だとしています。好奇心こそイノベーションの原動力なのです。

非認知能力を伸ばすための家庭環境をつくるポイント

子どもが好奇心を発揮し,自ら持っている成長する力を最大限に活かすためには次の5つのポイントが重要です。

  1. 子どもの好奇心や自主性に応じた「挑戦」ができる環境が保障されている
  2. 好奇心を持った時にすぐにアクセスできる
  3. 自分から挑戦して達成感を感じられる
  4. 失敗をしても安心・安全な空間がある
  5. ルールが設定されていること
非認知能力を伸ばす環境のキーワード5つ:「挑戦」「好奇心」「達成感」「安心安全」「ルール」

ワグナー博士は著書「未来のイノベーターはどう育つのか――子供の可能性を伸ばすもの・つぶすもの」で,遊びを子育てに活かすためには「何で遊ばせるか」と「どう仕向けるか」だと指摘しています。

子どもの自主性を尊重しながら少しだけ”仕向ける”ための環境づくり5つのポイントを詳しく見ていきましょう。

好奇心や自主性に応じた「挑戦」できる環境

子どもの育ちを支える環境づくりで一番整えたいのは,「挑戦できる環境」づくりです。

子どもの自ら成長する力を枯らすことなく育むには,その子が持っている好奇心や自主性を邪魔しないことが重要です。例えばそれはおもちゃや道具選びの場合でも同じです。

モンテッソーリ・メソッドでは,子どもの扱う道具(おもちゃも含む)を選ぶ際に次の4つの点を考えます。

  1. 子どもが自分で扱えるものを用意する
  2. なるべく本物を用意する
  3. 子どもに選択させる
  4. 物の置き場所を決める

(「子どもの才能を伸ばす最高の方法モンテッソーリ・メソッド」より)

特に挑戦できる環境づくりでは1〜3番が大切です。

子どもが自分で扱えるものを用意することで,子どもは自らの好奇心に従って遊ぶことができます(モンテッソーリ・メソッドでは「おしごと」とも言われます)。

子どもは大人の真似をしたいもの。大人が陶器のコップを使っていれば子どもも同じものを使いたいと思います。それを「割れるから危ない!」と取り上げてしまっては,子どもも「危険なものを丁寧に扱う」ことを覚えることができません。もちろんサイズは子ども用のサイズにするなど工夫は必要ですが,できるだけ大人と同じ材質のものを用意してあげましょう。

道具を用意するときには,大人が選ぶだけでなく子ども自身に選択させることが重要です。例えば,2つのものの中からどちらかを選択するだけでも,子どもは「自分の持ち物」と認識できます。「自分の持ち物」なら大切にしたいし,その道具と一緒に新しいことにも挑戦したくなるのです。

好奇心に従ってすぐにアクセスできる環境

子どもの好奇心は目まぐるしく変化します。興味を持ったときに興味を持った対象にすぐアクセスできると子どもの好奇心はどんどん膨らんでいきます。

ここで重要な考え方のポイントは,モンテッソーリ・メソッド環境づくりの4番です。

「物の置き場所を決める」

物の置き場所は一定の場所を決めておきましょう。定位置が決まると,子どもは自分の好奇心が赴いたときにその道具やおもちゃを選択することができます。

置き場所を決めたら子どもに管理を任せましょう。おもちゃは子どもが管理できるくらいの量に。片付けのたびにイライラする回数が減って親も子どももお互いハッピーでいられます。

また,子どもが普段過ごす場所に本棚をつくって興味を持ったときにすぐ読める環境にするのもおすすめです。図鑑なども一緒に置いておくと自然と自分から気になったことを調べるようになってきます。

この時も決まった場所に本があると,どこに本がるかと探すことなく興味を持ったときに自分で調べることができますね!

自ら挑戦して達成感を感じられる環境

成功体験を積み重ねていくことは子どもの自己肯定感を育む上でも大切なことです。ただし,闇雲に挑戦だけさせればいいのかというとそんなことはありません

大人は言葉で説明されれば理解できることが多いです。でも,子どもはまだ知っている言葉も少なく,言葉を理解する能力も十分に育っていません。

挑戦が大事だからと「がんばれ!」といってただ見ているだけでは子どもたちのできることは増えません。達成感も感じられません。
子どもの自主性を大切にしながら少しの手助けも必要です。

子どもには自分ではまだ完璧にはできないけど,大人の手助けを借りればできる「発達の可能性領域」があります(これを「発達の最近接領域」と言います)。子どもにとってはちょっとだけ背伸びをした挑戦の領域です。

今できることよりちょっとだけ上のことができると嬉しいですよね!達成感を感じるためにはこの挑戦の領域を伸ばしてあげることが大切なのです。

大人が手助けする際は,代わりにやってあげるのではなくお手本を見せてあげることが望ましいです(Carlson, & Whipple, 2010)。

ミネソタ大学のカールソン博士らの研究では,子どもが一人では解くことが難しいパズルの課題で,ヒントのみを与える支援的な親の方が,子どもの非認知能力の発達を促す結果になりました。

大人がヒントを与えたり手本を見せるときは次の4つのポイントに気をつけると伝わりやすくなります。

  1. 伝えることはひとつに絞る
  2. スローダウン:大人が通常行うスピードより8倍おそく
  3. 運動の分析:正確に,精密に,やって見せるためにひとつ一つの運動を分析し,一呼吸置きながら動作を区切ってお手本を見せる
  4. 動きと言葉は切り分ける
    「マンガでやさしくわかるモンテッソーリ教育」 pp.131より

失敗しても安心・安全な環境

挑戦したら当然失敗する可能性もあります。失敗したときに親が温かく迎えてくれると子どもはまた新たに挑戦しようと意欲を燃やすことができます。子どもは親を心のエネルギーの補給基地として活用しています。子どもが不安な時や失敗して悲しい時は,その感情を一緒に受け止めてあげながら優しい言葉をかけてあげましょう。

感情のやり取りで生じる絆(愛着関係)は様々な非認知能力の基礎になる大切な力です。

子どもが安心して挑戦するためには,例えば子どもが転んだ時に怪我をしないよう机の角にクッションを取り付けるといったように,物理的に安全な環境づくりも必要です。

心身ともに安心安全な環境で子どもの好奇心を育んでいきましょう。

必要最低限のルールが設定されている

子どもは大人と比べてまだ判断の未熟な部分もあります。自分や他人が怪我をしたり,物を壊してしまうような危険がある時はしっかりと大人が止めることも大切です。

「子どもの才能を伸ばす最高の方法モンテッソーリ・メソッド」で著者の堀田さんは,ダメを伝える時のポイントを2つ紹介しています。

  1. 「なぜだめなのか」理由をきちんと伝えること
  2. 親の態度に一貫性があること

親の態度に一貫性がないと子どもはルールがわからずに混乱します。言葉ではダメだと言っていても態度が上の空では子どもにルールを守る大切さは伝わりません。

反対の場合も危険です。言葉では「良い」と言っているのに,態度では「NO」と言っている場合です。このような言葉と態度が矛盾している状態を「ダブルバインド」と言います。ダブルバインドなメッセージは子どもが混乱するだけでなく心理的なストレスが多くかかります。

ルールを子どもと約束するときは,「親は一貫した態度で接すること」,だめなことを伝えるときは「なぜだめなのか理由をきちんと伝えること」を意識していきましょう。

非認知能力を伸ばすためのルールづくりについて詳しくは「自主性をつぶさない親子ルール決めで非認知能力をのばす」でも解説しています。合わせてご参考にしてください。

自主性をつぶさない親子ルール決めで非認知能力をのばす非認知能力を伸ばすための親子ルールづくりのポイントを心理士が丁寧に解説。自主性尊重の子育てはしたいけど,しつけやルールは決めなくてもいいの?という疑問にお答えします。ルールを決める際のポイントもわかりやすくご紹介。...

まとめ

非認知能力を伸ばすための環境づくりとして,5つのポイントを紹介しました。

  1. 子どもの好奇心や自主性に応じた「挑戦」ができる環境が保障されている
  2. 好奇心を持った時にすぐにアクセスできる
  3. 自分から挑戦して達成感を感じられる
  4. 失敗をしても安心・安全な空間がある
  5. ルールが設定されていること

子どもにとっては物理的な環境はとても大切です。それと同じかそれ以上に普段一緒に接してくれる親の存在は大きいものです。子どもの好奇心や自主性を大切にしつつ,一緒にルールを考えたり,おもちゃを選んだり,大人と子どもが目線を合わせていけると環境づくりも楽しくなりながら子どもの非認知能力を伸ばしていくことができます。

それぞれのポイントについては,また別の記事でも詳しく紹介していくのでそちらも参考にしてください。

環境を整えながら,子どもの発見を一緒に楽しんでいきましょう!

参考文献・サイト

堀田はるな(著),堀田和子(監修) 2018 子どもの才能を伸ばす最高の方法モンテッソーリメソッド あさ出版
トニー・ワグナー(著) 藤原朝子(訳). 2014. 未来のイノベーターはどう育つのか-子供の可能性を伸ばすもの・つぶすもの 英治出版
田中昌子(著),空生直(絵).2018 マンガでやさしくわかるモンテッソーリ教育 日本能率協会マネジメントセンター
Bernier, A., Carlson, S. M., & Whipple, N. (2010). From external regulation to self-regulation: Early parenting precursors of young children’s executive functioning. Child development, 81(1), 326–339.
モンテッソーリ教育とは | 日本モンテッソーリ教育綜合研究所

ABOUT ME
こぐに
公認心理師/臨床発達心理士/保育士 大学・大学院で心理学を専攻。発達支援歴8年200人以上の保護者と子どもたちを支援。"こころの育ちの専門家"。 モットーは「豊かに生きる力を伸ばしてもっと笑顔に!」非認知能力を伸ばす子育てについてわかりやすく発信中。