非認知能力

【まとめ】豊かに生きるちから-非認知能力とは

さいきん話題になっている『非認知能力』。
「非認知能力」という題名のついた書籍の刊行も増え,子育て世代向けの雑誌などでも取り上げられることが急激に増えています。
あなたもきっとどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。

非認知能力は,今までの「暗記型のテストで何点取れるのか?」といった,いわゆる従来型のあたまの良さとはちょっと違った能力のことを指します。
つまりは,もっと人生を豊かにするような,”生きる力”に直結する能力のことです。

では,非認知能力にはどのような種類の能力があり,なぜ今注目されているのか,そして非認知能力を伸ばすためにはどういうことをすればいいのか,この記事では解説をしていきます。

非認知能力とは

非認知能力とは,シカゴ大学教授でノーベル経済学賞も受賞したジェームズ・ヘックマン教授がいち早くその重要性を訴えた「数字で測りにくい」(けど,人生においてとても大事な)能力のことです。

ヘックマン教授は経済学の研究をする中で,「社会的に成功するための能力」として非認知能力の重要性をあげたのです。

(1990年代)当時のアメリカでは,「学力偏重」な教育カリキュラムが主流でした。評価されるのはテストの点数=知識の量です。

まるで今の日本の様な教育体制だったといえるでしょう。
そこで上がってきた問題も,まさに今の日本と同じような大量生産される「マニュアル人間」,応用が効きにくい社会人ばかりという悩みだったのです。

「スティーブ・ジョブズのようなイノベーターが出てこない!」
という悩みを実はアメリカ社会も抱えていたのです。

その悩みを突破するキーワードが「非認知能力」。
ヘックマン教授は,社会で通用する人間になるためにはテストの点数やIQなどの”数字で測りやすい”能力ではない,「生きる力」のような”数値で表しにくい”能力こそが大切だと訴えました。

非認知能力の種類と具体例

“数字で測りにくい”能力と言ってもどのようなものがあるのでしょう。

例えば,勉強をするためにもまずはその勉強に対してやる気を出すような「好奇心」や「向き合う力」が必要になるでしょう。

そして,勉強を継続するためには「くじけない力」「継続力」なども必要になります。

他にも,勉強を発展させるための「想像力」や「関係づける力」,「問題を見つけて解決する能力」などもあるでしょう。

実際に勉強したことを社会や生活の中で活かすには,「行動する力」や「やり抜く力」を発揮することが大切になります。

社会で生きていくためには人と関わっていくことも大切です。
「コミュニケーション能力」や「情動スキル」なども求められていくでしょう。

この様な能力は”数字で測りにくい”けど,確実に誰しもが生活の中で大切だと感じている能力なのではないでしょうか。

これらの能力をOECDは『社会情動的スキル』としてまとめています。

非認知能力は生まれつき?伸ばすことはできるの?

非認知能力は,もちろん生まれつきの特性に影響される部分もありますが,さまざまな体験や学習を通して後から伸ばしていくこともできます。

近年の教育改革の一つである「生きる力」を伸ばすための取り組みもその一つと言えるでしょう。

その中でも,10歳までの間に受ける教育や体験が「非認知能力」を伸ばすためにとても重要な役割を果たします。なので,この時期,特に乳幼児期には「非認知能力」を伸ばすことにフォーカスした子育てや教育が大切なのです。

ただし,10歳までの期間を逃したからといって「非認知能力」がその後も伸びないということはありません。それぞれの年齢に応じた働きかけをすることで,その子やその人の持つ可能性を伸ばすことができます。

昨今は,新社会人への教育プログラムとして「非認知能力」に関連する研修をする企業も出てきているようです。

なぜ,いま非認知能力が注目されているか

新社会人への教育プログラムに導入されるくらい,いま「非認知能力」への需要と注目が集まっています。

なぜ,ここまで「非認知能力」が注目されているのでしょうか。

大人にも求められる非認知能力

「非認知能力」を初めに提唱したヘックマン教授が経済学者であったように,「非認知能力」は実際の社会を生き抜くための能力として提唱されました。

社会人においては,いままで学校でやっていたように,ただ知識をアウトプットすれば100点がもらえるような仕事はほとんどないでしょう。

多くの場合,相手とのコミュニケーションや実際の問題解決が大きなテーマとなってくるでしょう。その社会人にも求められている能力が「非認知能力」なのです。

社会人基礎力との関連

社会人に「非認知能力」が求められていることは,経済産業省が掲げる「社会人基礎力」の中にも見て取れます。
経済産業省は社会人基礎力として,大きく分けて3つの力をあげています。

社会人基礎力

・考え抜く力
・チームで働く力
・前に踏み出す力

社会人基礎力の3つの力はテストで良い点を取るような能力とは,異なる性質のものだというのがわかるかと思います。

社会人基礎力として社会が求める力には,幼児期から培ってきた「非認知能力」が大きなベースとなっているのです。

また,実際の企業側からも,新社会人に求める能力として「コミュニケーション力」や「主体性」といった,”数字で測りにくい力”=「非認知能力」を求めています。

AIにはできない仕事をする非認知能力

近年,めざましい進化を遂げているAI。

きっとこの記事を読んでいるみなさんのスマホやPCの多くにもAIアシスタント機能が付いているのではないでしょうか?

AIの進化はめざましく,将棋の藤井聡太棋士もAIとの対局から多くの勝ち筋を学んでいるそうです。

AIがどんどんと能力を上げて便利になっていく中で,今後かなりの”仕事”がAIに取って代わられると言われています。

例えば,経理のような数字を扱う仕事や定型文の処理,ルーティンワークにおいては人間よりAIの方が圧倒的に正確で高いパフォーマンスを発揮してくれます。

私たち人間の仕事は全てAIに奪われてしまうのでしょうか。

おそらく,そんなことはないでしょう。

AIが進化してもなくならない職種としてよくあげられるのは,
・営業職
・データサイエンティスト
・カウンセラー
・アーティスト
・コンサルタント
・福祉/介護職

このような仕事に共通する点はなんでしょう?

それが,「非認知能力」です!

営業や福祉介護職,カウンセラーはまさに「コミュニケーション力」や「情動スキル」を主軸に仕事をします。
データサイエンティストやコンサルタントは「問題解決力」をフルに発揮して目の前の課題をクリアしていきます。
そして,アーティストの方々は「想像力」と「表現力」で私たちを魅了してくれます。

このような「非認知能力」に基づく仕事は,反対にAIが苦手とするところです。
AIとの仕事分担を考えると,「非認知能力」の社会的な必要性は,今後ますます増えていくでしょう。

認知能力と非認知能力の違い

従来の日本型教育では「テストで何点取れるのか?(=どれだけ暗記をしたか)」が重要な要素でした。

このような「点数化しやすい能力」=認知能力を日本の教育は長らくその中心課題においてきたのです。

どれだけマニュアルに沿って決められた作業をスピーディに行えるかは,いわゆる高度経済成長の時代にはとても重要なスキルでした。
価値観も共通しており,決められたものを造れば売れるという時代です。

そんな高度経済成長時代には,教科書的な知識量と決められた行動を適切に処理できる従来型のIQが求められたのです。

IQの検査では,「言語理解」「知覚推理」「ワーキングメモリー」「処理速度」のような決まった場面で求められる認知処理の能力が測定されます。

認知能力が”決まった場面”で行われる処理能力なのに対して,非認知能力では曖昧な場面や臨機応変さが求められるような場面で発揮される能力だと言えます。

非認知能力が生涯年収を左右する

非認知能力の高さは,単に人生を豊かに過ごせるだけではありません。
ヘックマン教授は,コミュニケーション力などの非認知能力が,一生のうちに稼げる額=生涯年収にも影響を与えることを指摘しています。

日本においても独立行政法人経済産業研究所の調査で,外向性や自尊感情などの非認知能力が社会に出てからの賃金へ影響していると示されています。

そのほかにも学習に向かう意欲や勤勉性は学歴にも影響を及ぼすため,その結果としてより良い会社に入りやすくなるという側面もありそうです。

非認知能力を伸ばすためにできること

非認知能力を伸ばすためにできることには,フォーマルなものとインフォーマルなものがあります。

フォーマルなものには幼稚園/保育園選びや習い事などのいわゆる幼児教育的なもの。

インフォーマルなものの代表には,遊びや日常の体験があげられます。体験の中からどんなことを学んでいくかというのがポイントになります。

幼児期や学童期にできる取り組み

幼児期や学童期の教育はその後に成長に大きく影響していきます。
この重要な子ども時代を大切にしていくためにどんなことができるのでしょうか。

子ども時代には,その後の成長の下地になるような学びや発達が重要です。
芸術に触れる機会を増やして,感性を伸ばす体験を積んだり,身体を動かす遊びやスポーツを通して体力づくりをしていくと良いでしょう。

幼児教育の種類

幼児期の教育には,モンテッソーリ・フレーベル・シュタイナーなど代表的な教育家がそれぞれ特徴的な教育方法を提唱しています。

自分のお子さんの特徴や育って欲しい姿に合うような教育方法を選ぶと良いでしょう。ただし,どの教育法も完璧な方法ではないので一つの方法を盲信しないよう注意が必要です。

学童期にできる非認知能力を伸ばす取り組み

小学生のお子さんの非認知能力を伸ばすためにおすすめの方法は,ズバリ読書です。

読書によって養われる能力には「想像力」や「語彙力」「読解力」などがあります。

「語彙力」「読解力」というと今までの国語のテストでも測られてきた認知能力なのですが,これが逆説的に非認知能力を伸ばすための基礎になるのです。

非認知能力の一つに「感情調整」があります。
感情調整は,怒りや悲しみなどの感情とうまく折り合いをつけていく能力です。

人は感情を調整するときに言葉に頼る部分が実は大きいのです。
感情の言語化については様々な書籍でも紹介されています。

人は”よくわからない状態”にはなかなか対処ができないのですが,「あぁ今は怒りを感じているな」「〇〇のことで悲しいんだ」と自分の気持ちを言葉にするとその感情の整理をすることができます。
このときに自分の感情にラベルづけする言葉を多く知っていた方が,自分の感情を調整する能力が高くなるのです。

つまり,「語彙力」や「読解力」を伸ばすことで自分の気持ちと折り合いをつける「感情調整」の能力も上がっていくという訳なんです。

他にも「読解力」様々な能力の基礎となります。

本を読む機会が増える小学生の学童期こそ,ぜひ多くの良書に触れる機会をつくってあげてください。

非認知能力を伸ばすための遊び

非認知能力を伸ばすための遊びについては,詳しくは別の記事でも紹介していきます。

遊びは子どもの最大の学びの機会です。子どもは遊びで得た経験から様々なことを学んでいきます。

ままごとは非認知能力を伸ばす遊びの中でもイチオシの遊びです。

ままごとは葉っぱや木の枝をお皿やお箸に見立てて食事の場面を再現したり,目の前にないものをあたかもそこにあるように振る舞って展開していく遊びです。

その過程では豊かな想像力が必要とされ養われていきます。

また,ままごとは一人でやる場合も複数人でやる場合も何らかのストーリー仕立てで行われていき,その時の状況やイメージを共有するために豊富な言葉のやり取りも行われます。

そして,「お母さん役」や「お父さん役」,「先生」「お花屋さん」「郵便屋さん」などいろいろな役を演じることで,少しずつ自分の身の回りの社会的な役割を学んでいくことができます。

豊かなままごとの展開には,子どもの想像力を刺激するおもちゃも一緒にあると良いでしょう。

おもちゃでできる非認知能力の伸ばし方

ままごとのように,子どもの非認知能力を伸ばすのにおもちゃはとても大事なパートナーです。

ままごと用のおもちゃやぬいぐるみ遊びを通して子どもたちは共感力や思いやる力を伸ばしていきます。

ボードゲームでは,コミュニケーション力や自己コントロール,感情調整や友達と一緒に遊ぶことを通して社交性を養います。

ブロックや積み木など組み立てて遊ぶおもちゃでは,想像力や柔軟性,見立てを共有することで共感力やコミュニケーション・協働力を,作る過程では計画力ややり抜く力を育てていき,完成すればそれはその子の自信にもなっていきます。

おもちゃの遊び方によって伸びていく能力はちょっとずつ違いますが,非認知能力を伸ばすために共通することは,じっくりとその”おもちゃで遊びこむ”ということです。

おもちゃの選び方

おもちゃを選ぶときのポイントは次の3つです。

・子どもの興味関心に合わせて選ぶ
・月齢や年齢を参考に発達段階に合わせて選ぶ
・キャラクターものや遊び方が限定されているものではなく,できるだけ想像力を発揮して遊びが広く展開できるものを選ぶ

木でできているものプラスチックでできているものなど,素材に関しても子どもが遊びやすく怪我をしにくければどの様なものを選んでも大丈夫です。

非認知能力を伸ばす習い事

非認知能力を伸ばすには,幼児期や児童期の習い事もおすすめです。

芸術や音楽系の習い事なんかはイメージしやすいでしょうか。

お絵かき教室などの芸術系なら想像力を刺激してい感性を育むことができます。

音楽系の習い事なら感性ややり抜く力を伸ばすことができます。

他にも最近注目度の高まっているプログラミング学習などの認知系の習い事でも,好奇心ややり抜く力,目的に向かって工夫をすることで柔軟性なども養うことができます。

どんな習い事でも,やり抜くことで自信や自尊心を高めることができます。
そのためには親の言葉かけや少しの成長を認めてあげることが最も大切です。

非認知能力を伸ばすなら幼稚園と保育園どちらを選ぶ?

よく聞かれる質問に「非認知能力を伸ばすなら『幼稚園』と『保育園』のどちらに通わせるのが良いでしょう」という親御さんの疑問があります。

実際,幼児期の育ちの環境を考えると非常に悩ましいポイントですよね。

幼稚園と保育園のどっちが非認知能力を伸ばすのに合っているのか?

結論,どちらでも構いません。
幼稚園でも保育園でも,適切な働きかけをすることで子どもの非認知能力は伸びていきます。

保育園ではそもそもコミュニケーションや芸術的な表現活動を伸ばしていけるように,「保育所保育指針」内で保育園で行う活動が示されています。

他方,幼稚園では時間割があったり比較期”お勉強”に近いイメージを持つ人もいるかもしれません。

実際に小学校で習う内容の先取りをしているような幼稚園もありますが,一方でモンテッソーリ教育を導入しているような幼稚園もあります。

モンテッソーリ教育を取り入れているような幼稚園では子どもたちの学びの基礎となる育ちを大切にしているので,非認知能力の向上が期待できるでしょう。

なので,幼児期の育ちの環境を選ぶ時のポイントは2つです。

・その幼稚園や保育園がどんな理念で運営されているか
・そして,子どもがどんな特性を持っているか

その2つのポイントを押さえながら園探しをすると良いでしょう。

時間割などのある程度の枠があって,そこにそって動く方が合うなら幼稚園,表現活動などの時間が好きである程度の自主性をもとに時間を過ごしてほしいなら保育園,
などの様に子どもの特性を考えながら,その上で育ってほしい姿に合うような理念を持つ園をぜひ選んでください。

勉強系の幼稚園との相性は?勉強と非認知能力アップ両立はできるのか

そんな中でいわゆる勉強=認知能力の育成に特化した幼稚園では非認知能力の発達は望めないのか,という疑問も湧くかもしれません。

勉強重視の幼稚園でも非認知能力が発達しないということはありません。
勉強系の幼稚園でも子どもの非認知能力はアップさせることができます。

勉強重視の園でも非認知能力を伸ばすためには,経験を通して感じることを大切にすることやそれを引き出す親の言葉かけが大切になります。

つまり,非認知能力を伸ばすような親のフィードバックが重要なのです。

どのような要因で非認知能力に差が出るのか

子どもの非認知能力を伸ばすためには,最適な環境や習い事,おもちゃや体験を積み重ねることが大切です。

体験の積み重ねの中で,特に感情の変化を伴う体験を重ねていくことが,子どもの非認知能力を伸ばすための育ち環境づくりで重要なポイントとなります。

そして,親の言葉がけに気をつけていくことも,子どもの非認知能力向上のために大切なことです。
あまりむずかしいことは考えず,子どもの体験を尊重しながら子どものやる気や好奇心を削ぐ言葉を極力減らしていくと,子どもは自然と多くの体験を吸収していき,自分の非認知能力を高めていくことができます。

モンテッソーリ教育やこのブログを参考に,お子さんが興味を持ってやりたいことに取り組める環境をぜひつくってあげてください。

ABOUT ME
こぐに
公認心理師/臨床発達心理士/保育士 大学・大学院で心理学を専攻。発達支援歴8年200人以上の保護者と子どもたちを支援。"こころの育ちの専門家"。 モットーは「豊かに生きる力を伸ばしてもっと笑顔に!」非認知能力を伸ばす子育てについてわかりやすく発信中。