子どもの非認知能力を伸ばす教育として注目されているモンテッソーリ教育。
モンテッソーリ教育の基本は子どもが自律的に伸びる環境を用意すること。他の様々な研究や書籍でも「子どもの自主性を伸ばす環境」が大切だと言われています。
しかし,そうは言っても子どもは大人が予想もしない行動をするもの…。時には自分や誰かに怪我をさせたり命の危険を感じることも…。伸び伸び育てたいけどやっぱり危ないことはやめさせたい…。
自主性だけ尊重してたらわがままな子になってしまうのでは…。
やっぱりしつけもしたほうがいいのかしら…。
自主性を大事にする子育てとルールやしつけは果たして両立できるのか?
そんなことを疑問に思う方も少なくないのではないでしょうか。
この記事では,自主性を尊重しつつもルールを決めてしつけと両立するための子育て方法を解説していきます。
Contents
ルール決めと自主性尊重の子育ては両立できる
自主性を尊重した子育てとルールは両立できるのか? 結論,両立できます!むしろ子育てにおいて一定のルールやしつけは子どもの健やかな発達にプラスの影響があります。
世界的なイノベーター教育の権威トニー・ワグナー博士は,「未来のイノベーターはどう育つのか――子供の可能性を伸ばすもの・つぶすもの」 の中でイノベーション教育に熱心な親からのインタビューを実施しています。以下はインタビューのうちの1つの要約です。
シスコ・コラボラティブ・リーダーシップセンタのアンマリー・ニール副社長(児童心理学の博士号を持つ母親でもある!)は,6歳の息子のために決めているルールは2つだけだと語る。安全と個性だ。 例えば,「クリスマスツリーを倒したら誰かが怪我をするかもしれない」と危険性は伝え言い聞かせるが,「オーナメントを全部外して好きなように飾り直したい」という子どもの要望には思う存分好きなようにさせる。
「未来のイノベーターはどう育つのか――子供の可能性を伸ばすもの・つぶすもの」 pp.252より
他にも「未来のイノベーターはどう育つのか」で,連続起業家でエンジェル投資家のセミヨン・デュカクは,「親としていちばん重要なのは、子供の意見を尊重して耳を傾けること。でも自由にさせすぎないことも重要で、限界、境界線、秩序は必要です。」と語っています。
世界的なイノベーターたちも子育てにおけるルールや決まりごとの重要性を感じているようです。
実際,ルールを設定することの科学的根拠はあるのでしょうか?
「権威的な養育態度」が子どもの健全な発達をうながす
実は心理学の世界では,ある程度管理的な親の方が子どもの非認知能力が伸びることが知られています。
京都大学大学院の森口祐介准教授による「子どもの発達格差 将来を左右する要因は何か」では,子育てにおいて温かさと厳しさのバランスを揃えることが大事だと指摘されています。
国内外の研究から、子どもの健全な発達に寄与するのは、「権威的」な養育態度であることが報告されています。温かさは大事なのですが、温かいだけで子どもを導けないのもダメなようです。一方で、親の権威は大事なのですが、権威ばかり重視して厳しすぎて、子どもに 温かさを示せないのもダメなようです(権威主義的な養育態度)。温かさと厳しさの両方がバランスよく揃っていることが大事なのです。
子どもの発達格差 将来を左右する要因は何か (PHP新書) pp.182より
温かさと厳しさのバランスが取れた親の養育態度のことを「権威的な養育態度」といます。子どもの非認知能力を伸ばす健全な発達のためにはこの「権威的な養育態度」が重要なのです。
権威的な養育態度とは
「権威的養育態度」とは,アメリカの発達心理学者バウムリンド博士によって分類された親の養育態度のうちの1つです。バウムリンド博士は親の養育態度を「統制」と「応答性」という軸から3つに分類しました。
「統制」は,子どもの意思とは無関係に親が子どもにとって良いと思う行動を決定し,それを強制する行動のことを指します。
「応答性」は,子どもの欲求に気づき,愛情を持って接することで子どもの意図をできるだけ叶えようとする行動のことです。
ルールをしっかりと設定しつつも子どもの欲求や感情に寄り添いながら接することのできる「権威的態度」が,子どもの成長,特に非認知能力の発達には最も良い影響を与えます。
子どもにとってはルールのない環境では見通しが立てられずむしろ何をしていいかわからない。不安を感じることもあります。子どもにとって親の統制は一種の守られているという感覚に繋がります。応答性が高く統制的な「権威的養育態度」は子どもにとって,先を見通せて守られているという安心感の要因になるのです。
しつけを受けた人の年収は約86万円も高くなる!?
統制の影響は単なる非認知能力だけにとどまりません。
神戸大学の西村和雄先生らは,親から基本的モラルのしつけを受けた者とそうでないものの所得の差を調査しました。4つの基本的モラル(嘘をついてはいけない,他人に親切にする,ルールを守る,勉強をする)のしつけが労働市場の評価に影響を与えていることがわかっています。
この4つの基本的なモラルの躾をすべて受けた者と、一つでも欠けた者との間での所得(年収)比較を行うと、基本的なモラルの躾をすべて受けた者はそうでないない者よりも約 6 4 万円多く所得を得ている
西村ら,2014 基本的モラルと社会的成功
全ての躾を受けていないものとの比較では,最大約86万円の所得(年収)の差が示されています。
年収86万円だと,1ヶ月分に換算して7万円を超える差にもなります。7万円あれば,クアラルンプールやホーチミン,LCCを使えばハワイ(ホノルル)までも旅行に行けてしまいます。(参考:トラベルjp|7万円以下で行ける!海外旅行先をまとめてみました)
しつけの影響はかなり大きいですね!
ルールを決める時のポイントと陥りやすい間違い
実際に子どもとルールや約束事を決める時にはどんな点に注意をすればいいのでしょうか。
子どもを縛ってしまう間違いルールと子どもが成長できるのびのびルールづくりのポイントをそれぞれ見ていきましょう。
子どもを縛ってしまう間違いルール
子どもの成長にマイナスになってしまうルール決めは3つの点が特徴的です。
- 細かいルールを決めすぎている
- 基準が曖昧
- 親のためのルールになっている
細かいルールを決めすぎると,子どもは理解が追いつかなかったり,親も一つ一つの行動をチェックしなくてはいけなくなり親子ともども疲れてしまいます。ルールが多いとその分「守れないルール」も多くなってしまいがちなのでその都度親はイライラ…子どもの自己肯定感も下がりまくり…なんてことも。
ルールは子どもにとって先を見通すための地図の役目も果たします。基準が曖昧では子どもにとって「どうやって守ったらいいのかわからない」ルールになってしまいます。時間や場所などわかりやすくルールを定めることも必要です。
子どもを縛る間違いルールで一番やってしまいがちなのは,「親のためのルール」になっていることです。親の都合で守らせるルールでは子どもにとっての「本当にやりたいこと」を潰してしまいかねません。「あなたのためなんだから」という言葉を使いながら親の都合に合わせるようなルールでは,子どもの大切な自主性や自己肯定感を下げてしまいます。
子どもが成長するのびのびルール
子どもがのびのび成長するルール決めの1番のポイントは「できることをルールとして守る」です。できない約束を多く抱えると子どもにとっても負担になりますし,親にとっても常にイライラの原因になってしまいます。そうならないためのルール決めのポイントを見ていきましょう。
- 決めることは必要最低限
- ルール決めの主役は子ども
- 子どもの年齢や発達に合ったルールを決める
- 親の態度が一貫していること
ルールとして決めることは必要最低限が望ましいです。前出「未来のイノベーターはどう育つのか」のアンマリー・ニール副社長も決めていたルールは大きな二つだけでした。家族にとって「本当に大切なこと」と「それほどでもないこと」を切り分けて,ルールを決めすぎないようにしてみましょう。ルールの数を最低限にしぼれると「最低限の約束が守れていれば,あとはまぁいいか!」と親もいい意味で諦めることができるので,親子一緒に気楽にルールを守れるようになります。
子どもは自分で決めたことをやりたくなります。ルール決めの時もあくまで主役は子ども。何かを決める時に,親が一方的にルールを設定するのではなく,子どもも主体となって一緒にルールを考えてみましょう。「どうしてそのルールが必要なのか」「家族にとって何が大切なのか」を子どもも一緒に考えることでルールを守れるようになるだけでなく,ルールの本当の大切さへの気づきや考える力も育むことができます。
ルールは子どものためのもの。なので,今の子どもの年齢や発達に合わせて子どもが自分で守ることのできるルールをつくってあげることが重要です。「子どもの才能を伸ばす最高の方法モンテッソーリ・メソッド」にて著者の堀田さんは,ルールを決める時の伝え方として「なぜだめなのか理由をきちんと伝えること」をあげています。大人にとっては当たり前のルールでも,幼い子にとっては「どうして大切なことなのか」がわからないこともあります。ゆっくり丁寧にどうしてだめなのか,どうしてそのルールが必要なのかを伝えていきましょう。
ルールを守る際にも工夫が重要です。まだ幼い子どもにとっては時間の感覚も未発達なので単に「時間を守る」というルールだけでは約束を守るのが難しい場合もあります。その子がどうしたらルールを守れるようになるか工夫をしたり,まだ年齢的に守れなそうなルールは最初から決めずに先送りするのも一つの手です。
最後に,子どもがのびのび育つルールの一番の肝は「親の態度が一貫していること」です。基準の曖昧なルールでは子どもが混乱するように,その評価基準が親の気分次第で変わってしまっては子どもはさらに混乱してしまいます。ルールを決めたらその時の気分や親の都合で評価基準を変えるのではなく,いつも一定の基準でルールを守ることが大事です。そのためにルールはつくりすぎずに最低限にしぼっておきましょう。
まとめ
今回は子どもが自主性を発揮するための「見通し」としてのルールのポイントをご紹介しました。
非認知能力を伸ばすためのルールづくりのポイントは,
- 権威的な養育態度で子どもに接する
- 子どもも主体的に一緒にルールをつくる
- 子どもが守れるようなルールにする
- ルールはつくりすぎず,親の態度は一貫させる
子どもがやりたいことをやらせてあげて自主性を伸ばすことは非認知能力の発達に大切です。その一方で子どもの判断力は未熟な部分もあるので,ある程度親の管理が必要な部分もあります。非認知能力を育む伸び伸びとした子どもの育ちには,実はルールを決めることも重要なのです。親子で一緒にのびのびできるルールづくりにご紹介したポイントをぜひ参考にしてみてください。
他の記事では今回のルールづくりにプラスして「非認知能力を伸ばすための家庭環境づくりの考え方」や「子育てに重要な親の関わり方」について解説しています。そちらも合わせてご参考にしてください。
参考文献・サイト
トニー・ワグナー(著) 藤原朝子(訳). 2014. 未来のイノベーターはどう育つのか-子供の可能性を伸ばすもの・つぶすもの 英治出版
森口祐介 2021 子どもの発達格差-将来を左右する要因は何か PHP新書
Baumrind, D.(1971).Current patterns of parental authority. Developmental Psychology Monograph, 4, 1-103.
西村和雄, 平田純一, 八木匡, & 浦坂純子. (2014). 基本的モラルと社会的成功. クオリティ・エデュケーション= Journal of quality education: 国際教育学会機関誌, 6, 1–25.
堀田はるな(著),堀田和子(監修) 2018 子どもの才能を伸ばす最高の方法モンテッソーリメソッド あさ出版
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