「遊ぶことは子どもの仕事」と言われるくらい,子どもにとって遊ぶことは大切です。
遊びは子どもたちが「日々を生きること」そのものとも言えるくらいです。
子どもの将来を左右する非認知能力の成長にも「遊び」は大切な役割を果たします。
でも,改めて考えてみると「遊び」とはどんな活動なのでしょうか。どうして子どもの成長には遊びが欠かせないのでしょう。
この記事では,「そもそも遊びとは?」「遊びの持っている力とは?」「遊びのどんな部分が子どもの成長に役立っているの?」「どんな遊びが子どもの成長にはいいの?」という疑問を,子どもの育ちの専門家が丁寧に解説していきます。
それでは一つずつ見ていきましょう。
Contents
子どもの非認知能力を伸ばすために遊びは超重要
子どもの発達に遊びの存在は欠かせません。非認知能力の成長も同じです。
イノベーター教育の権威であるハーバード大学のトニー・ワグナー博士は,イノベーターとして必要な能力は「遊びを通して学ぶことができる」と話しています。(未来のイノベーターはどう育つのか――子供の可能性を伸ばすもの・つぶすもの pp.26)とくに,クリエイティブな能力を伸ばすなら「スケジュールを詰め込まず,遊びと発見の時間を確保する」ことが重要だと指摘しています。
子どもは日々ちょっとずつ新しい能力を身につけ,新しいことを発見していきます。この成長を引き出すから遊びは子どもの育ちにとって欠かせない存在なのです。
そもそも遊びとは目的を持たない自由な活動
遊びとはどんな活動のことを指すのでしょうか。私たち大人も子どもの頃は毎日遊んでいたし,大人になってからもたまには休日に遊ぶことだってあるでしょう。でも,改めて「遊び」とはどんなことですか?と説明できる人はなかなかいないと思います。
「遊びとは何か?」という問題の答えは,哲学や教育・保育,心理学の分野でも様々な議論があり定まった答えが出ていません。その中でも1つの定義として多く取り上げられるのが,フランスの社会学者カイヨワによる遊び6つの分類です。
カイヨワは社会学の観点から人間の遊びを次の6つの要素に分けて定義しました。
- 自由な活動|遊戯者が強制されない活動
- 隔離された活動|あらかじめ空間と時間が決められている
- 未確定の活動|あそびの展開が決定されていたり結果がわかっていてはならない
- 非生産的な活動|あそび展開(ゲームなど)での財産の移動をのぞいてあそび開始時と何も変わらない
- 規則のある活動|ルールに従って行う活動
- 虚構の活動|日常と比較して非日常であるという認識のもとに行う活動
カイヨワの定義は言葉も堅くて少しわかりにくいかもしれません。もう少しわかりやすい定義も見ていきましょう。
日本福祉大学で保育者の教育をしている勅使千鶴教授は,遊びを5つの視点から説明しています。
- あそびは,子どもの年齢に応じて楽しむことができ,そのうえ面白さを追い求める活動である
- あそびは,本来自主的・自発的で自由な活動である
- あそびは,身体的諸機能,諸能力の発達をうながす活動である
- あそびは,知的諸能力を発達させる
- あそびは,人と人とを結ぶ活動である
参考:勅使千鶴「子どもの発達とあそびの指導」 ひとなる書房
カイヨワとの共通点は,「子どもが自主的・自発的に行う(誰かに強制されない)」という点です。遊びの持つ本質は子どもが自ら「やりたいからやる」活動という点です。その上で,ゲーム性を持っていたり「楽しめること」が重要です。
やりたい気持ち,好奇心こそ成長するためには大事な要素ですよね。子どもの好奇心に基づいて展開されていく活動が遊びです。だからこそ,遊びは子どもの能力を伸ばしていきます。
ただし,遊びは「知的身体的な発達を目的とする活動とは異なる」ことを勅使先生も強調しています。遊びを通して成長することはあくまで結果であり,発達や成長自体が目的ではないということです。
遊びには癒しと成長の力がある
遊びは子どもの成長にどんな影響を及ぼすのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
大正大学人間学部の特任教授であり「プレーパークせたがや」の理事もつとめる天野秀昭さんは,著書「よみがえる子どもの輝く笑顔」のなかで遊びの持つ力について解説しています。
遊ぶ行為には自分で自分を育てる力が満ちあふれている。この力を,ぼくは「遊育」と呼んできた。大人がよく使うのは「教育」だ。この二つの言葉には、決定的な違いがある。教育の教の字は、「教える」という他動詞だ。必然的に育の字は「育てる」となろう。それに対し、遊育は「遊ぶ」という自動詞なので、「育つ」。誰が主体かを考えれば、その決定的な違いがわかる。遊育は、それをする本人が主役の言葉なのだ。
天野秀昭「よみがえる子どもの輝く笑顔 ~遊びには自分を育て、癒やす力がある~ (あんしん子育てすこやか保育ライブラリーspecial)」 pp.52
非認知能力を伸ばす教育として注目されているモンテッソーリ・メソッドでも,子どもは本来自分が成長していくための能力を持っている,だから子どもが主役になることが重要なのだと子ども中心の大切さを強調しています。
遊びは本気で取り組むことが大事です。そのことを天野さんは「遊び込む」と表現しています。
遊び込むことで子どもは自分の力の限界まで挑戦し,成長していくことができます。自主的で自由な遊びだからこそ本気の力で限界まで挑戦することができるのです。
ボードゲーム遊びで問題解決力を伸ばす
アメリカの非認知能力教育を日本に紹介しているボーク重子さんは「「非認知能力」の育て方:心の強い幸せな子になる0~10歳の家庭教育」で,「遊びは問題解決力を伸ばす最大のチャンス」と言っています。やりたくてやっている楽しい遊びだからこそ,子どもは困難にぶつかってもなんとか問題を解決しようと挑戦できるのです。
ボーク重子さんは,特にボードゲームや料理を遊びの中に取り入れると効果的だと紹介しています。(もちろん幼児期の遊び体験の中でも問題解決力を伸ばすチャンスはあります!)
ヨーロッパやアメリカではボードゲーム文化が盛んで,家族そろってテーブルを囲みながらゲームをすることは一般的です。最近は日本でもボードゲームが浸透してきましたね。おもちゃ屋さんでも売り場が増えてきています。それと同時に日本でもボードゲームを子育てや教育に活かすケースや場面が増えてきました。
ボードゲームの持つ力について,ボードゲームを学級運営に活かしている小学校教諭の加賀俊介さんは次のように話しています。
ボードゲームは子どもが主体的に学べ,周りと関係をつくれ,それらを実生活に結びつける力があります。 加賀俊介「ボードゲーム教育」pp.21
ボードゲームは繰り返し遊ぶことでボードゲームの持つ効果が得られます。
ボードゲームというと普段なじみのない方は人生ゲームや将棋囲碁,オセロなどを想像するかもしれませんが,その種類は実はとても豊富です。運と実力が作用するゲームも多くあります。大人が相手になっても負けることがあるので子どもも対等に勝負をすることができます。
ボードゲームはその見た目に惹かれたり,サイコロを転がしたり,ゲームの中でお金を獲得したりと子どもも夢中になれる要素が詰まっています。大人と対等に渡り合える点も子どもを夢中にさせる要因の一つ。ボードゲームは子どもが本気になれます。本気になれるから遊び込めて,遊びの持つ力を存分に受け取りやすいのです
遊びは子どもの心を安定させて癒すことも出来る
遊びには癒しの力もあります。子どもを対象にした心理臨床の場面では遊びの持つ癒しの力を使った,「遊戯療法(プレイセラピー)」という方法が使われるが多いです。子どもは遊びの中で自己表現をしたり,自分の中の感情を整理したりしていきます。その活動を通して子どもの心が癒されていくのです。
また,子どもは親と一緒に遊ぶことで親子の絆も強くしていきます。遊びの場面では感情がとても豊かに動いていきますよね。感情の動きを大人が寄り添って共有することで,子どもと大人の間にあたたかな情緒的結びつきができていきます。この情緒的な結びつきのことを「愛着(アタッチメント)」と言います。
愛着(アタッチメント)は子どもの健康な成長のためには欠かせません。特に非認知的な様々な能力は愛着をベースに発達していきます。子どもと一緒になって遊び込むことは愛着の安定化にもとても有効です。
親子の関わり方については,「【非認知能力を伸ばす】子育てに重要な親の関わり方5つのポイント」でも詳しく解説しています。
遊ぶより早期教育・英才教育をするべき?
子どもの成長を考えた時に,幼いうちから早めの教育や一つの分野に特化した英才教育をするべきか悩む方も多くいます。「遊ぶ時間があったら早くから勉強したほうがいいのでは?」と疑問を持つ方もいるでしょう。
実際,ピアノやバイオリンなど音楽で成功している人の中には3〜4歳など幼いうちから教育を受けてきた人が多くいます。
この疑問に対して発達心理学者の無藤隆先生は次のように述べています。
たとえば, 小さい時期に遊びをせずに, 何かの練習とか勉強などをしていてよいということになるのだろうか.単純に遊びたい気持ちを抑えることが問題だということを別として,その結果, 何が発達上不足しているかはよく分からない。ただ,多種多様な遊びに比べ,練習や勉強は人間の能力のある面だけしか使わないことが多いから, 発達の全面性を考えると、具合が悪そうに思える。
無藤隆「発達心理学 (キーワードコレクション)」 pp.127
体の機能の発達と思考力などの認知能力の発達が切り離せないように,人間の発達は様々な要素が絡み合って成長へと繋がっていきます。何かの練習や勉強だけに特化してしまうと,その部分は伸ばせたり使っていることを認識できても他の部分がどうなのかわからなくなってしまうのです。
遊びは子どもの持っている機能を全般的に注いで挑戦する活動です。だから,発達上の不足点に気づきやすい。不足点なく子どもが能力を伸ばすためには,遊びを通して自分の持つ力を存分に発揮することが大切なのです。
まとめ-遊びの意味とちから
今回は非認知能力を伸ばすための遊びの重要性について,「そもそも遊びとは」「遊びの持つ力」「早期教育より遊ぶことが大切な理由」を紹介してきました。
遊びが持つ意味のポイント点は
- 遊びとは主体的自発的に行う活動
- 遊びは楽しんで「遊び込む」ことが重要
- 遊びは問題解決力の伸ばす絶好のチャンス
- 遊びを通して子どもは癒され親子の愛着が形成される
- 遊びを通して全般的な能力を向上できる
イノベーター教育のワグナー博士は,遊びを子育てに活かすには,「どう仕向けるか」と「何で遊ばせるか」が重要だと指摘しています。遊びも始めたした子育ての環境については,「【非認知能力を伸ばす】子どもが育つ家庭環境づくりの考え方」でも詳しく解説しています。
遊びは子どもが成長するための重要なピースです。遊びの意味や遊びが持つ力を認識することで,子どもの非認知能力を伸ばすためのヒントにできます。たまにはママやパパ,大人も子どもと一緒に楽しんで遊び込んでみるのもいかがでしょう!?
参考文献・サイト
トニー・ワグナー(著) 藤原朝子(訳). 2014. 未来のイノベーターはどう育つのか-子供の可能性を伸ばすもの・つぶすもの 英治出版
カレイドソリューションズ|遊びには分類がある??ゲームを考える上での「遊びの分類」とは
勅使千鶴. 1999. 子どもの発達とあそびの指導. ひとなる書房
天野秀昭. (2011). よみがえる子どもの輝く笑顔: 遊びには自分を育て、癒やす力がある. すばる舎.
ボーク重子. 2018. 「非認知能力」の育て方:心の強い幸せな子になる0~10歳の家庭教育. 小学館.
加賀俊介 2022 ボードゲーム教育 青雲社
無藤隆 1992 III-29 遊び. 子安増生・二宮克美 編. キーワードコレクション発達心理学[改訂版]. 新曜社 pp.124-127.